71、積み上げる

「葉、ちゃんとバランス考えて飾ってよ」
「おお、悪い。たまお、それ取ってくれんか」
「はい葉様、どうぞ」

現在、この家には相応しくないオブジェが組み立てられていっている。
この時期には欠かせない、クリスマスツリー。
無宗教の日本人だからこそ楽しめるキリスト教の特別な日。
クリスマスにはまだ早いけど、そういう雰囲気を楽しむのだと、
の提案によって今年もツリーが出された。
高さは1mくらいある。
子供ができた事が嬉しかったのか、
僕らが生まれた年に父さんが買ってきたものらしい。
全室畳張りのこの家にクリスマスツリー…。
シュールだ。
僕はそれを少し離れたところから眺めている。

「うん、上出来! 最後は星ね」

そう言ったがこっちを向いて、僕に手招きした。

「ハオ、星!」

そう言って微笑むと、葉もたまおもこっちを向いた。
これまで全く参加してなかったのに、
最後の星という大役を僕に任せるつもりらしい。

「早く」

そう急かされて、僕は重い腰を上げる。

ハオには星が似合うから。

いつかが僕に言った。
だから、毎年星だけは僕に付けさせる。
それが恒例行事みたいになっている。

「はい、これで良い?」
「うん。ありがとう」

そう言って笑顔で微笑むに、僕はちょっと頬を赤くさせた。

(2008/03/17) 赤くなったハオは可愛いと彼女は言う。





72、崩壊

「……私、ときどき夢を見るの」

少し強張った顔のが言う。

「着物姿のハオに似た人が、…ううん、もっと大人なんだけど。
その人と一緒にいる夢。一緒にいて、花を見たり、ただ笑ってたり…」

は怪訝そうな顔をして、オイラの顔をじっと見て、
やっぱりハオみたいな人、と小さく首を振った。
それは、同じ顔をしているけど、オイラじゃないって事だ。

どこか夢の余韻に浸るように遠くを見つめるに、
オイラは途轍もなく大きなものを垣間見たような気がした。

ハオも同じ事を言っていた。
時々、着物を着たみたいな女の人と一緒にいる夢を見る、と。

それを伝えるかどうか迷って、
結局言わない事にした。

言ってしまったら、何かが壊れてしまうような、
そんな気がした。

(2008/01/01) 二人の前世なんて、そんなの、オイラには…。





73、最後

夢は記憶の整理。
夢は眠りの守護者。
夢はお告げ。

色々言われているけど、私のあの夢は一体何なのだろう。
あの夢の事を考えると、不安でいっぱいになる。



そう、夢の中の彼は私の名前を呼ぶのだ。
会った事のないはずの美しい男。



夢の中の狩衣の男は、いつも私の名前を優しく囁く。
あれは本当にハオなのだろうか。

それを突き止めてしまったら、
私の中の全てが終わってしまうような気がした。

(2008/03/17) 知りたいけれど、怖くてこれ以上は進めないの。





74、雨は降っているか?

『雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう』

そんな歌があるけど、今日は朝から雨で、
天気予報も1日中雨だった。
雨のクリスマス・イヴ。
出雲はそんなに雪深い場所でもないし、
ホワイトクリスマスは望めないな。

そう思ってもどこかで期待している僕がいる。
こんな家に生まれたのに。
少し笑える。

「雨、まだ降ってる?」

そう問うた僕に、は音もなく障子を開けた。
はしばらく外を見て、それからゆっくりと振り返った。

「ゆき」

今夜は雪だよ。
そう言って微笑んだは、雪の精のように奇麗だった。

(2008/03/17) ときめきが止まらない15歳真っ盛り。





75、迷い

赤と青。
オイラは今、物凄く迷っている。

ツリーの下に置かれた、いわゆるクリスマスプレゼント。
全く同じ大きさで、全く同じ包み方をされた色違いの箱。

とたまおのプレゼントにはそれぞれ名前のタグがあったけど、
オイラとハオのプレゼントには『ハオ&葉』と一括りにされていた。
多分、中身も色違いの同じものだと思う。
ハオは中身に興味がないのか、オイラに選択権をくれた。

だけど、それが間違いだった。
オイラは別に赤も青も好きじゃない。
好きな色は緑とかオレンジとか。
少なくとも赤と青じゃない。
ハオは何となく赤って感じだから、オイラが青を選ぶべきか…。
それとも逆をとってオイラが赤にするべきか…。

ツリーの前での二者択一は、
まだしばらく答えが出そうにない。

(2008/03/19) 結局、昼前に痺れを切らしたハオが赤を取った。





76、再生

「……」

片手間に部屋の掃除をしながら、
その実私は人間観察に一生懸命である。
対象者はハオと葉。
この双子は驚くほど全く同じ顔をしている。
一卵性双生児だからしょうがないのかもしれないけど。
それなのに中身は正反対で見ていて面白い。
違う個体だから当たり前なんだけど。

襖から覗く廊下を右から左にハオが横切って、
その後を葉が右から左へ。
二人とも大掃除に一生懸命。
忙しなく動く二人を見ていると、
まるでビデオでも見ているような気分になってくる。
襖という切り取られた画面を、延々と再生しているような。
そんな感じ。

(2008/03/20) ハオの髪の毛を切りたいと密かに目論む嬢。





77、ストレス

ストレス社会とはよく言ったもので、
僕は今まさにそのストレスの被害に遭っている。

「葉! あんた、修行さぼってたわね!」
「い、いや…。その、…さすがに毎日は、しんどいんよ…」
「煩いわね! 口答えしてんじゃないわよ!!」

庭から聞こえてくる声に、僕は2階に非難する。
部屋に戻ろうかと思ったけど、
この騒動に逸早く気付いて端から非難していたの部屋に行った。

声を掛けると『んー』と気のない声がして中に入ると、
ヘッドフォンを装着して寝そべりながら雑誌をめくるがいた。
庭の出来事なんてにはどこ吹く風だった。

「ハオも避難してきたんだ」
「まぁね。…それにしても、は準備周到だね」
「毎年の事だからね」

盆と正月のばあちゃんの帰省と、アンナの来訪。
嵐対策は完全だと、は不敵に笑った。

(2008/03/20) 来年からは僕も対策を練っておこうと決めた。





78、イメージダウン

「何でアンナ、オイラばっかり…」

腫れた右頬を摩りながら、オイラはぼやく。
見かねたたまおが湿布を持ってきてくれて、
ハオがそれをにやにや笑いながら見てて、
がアンナを宥めてくれていた。

「……もうちょっとくらい優しくなっても良いのに…」

いまだに怒気を放つアンナを盗み見て、オイラは呟く。
それでもアンナの事を嫌いになんてなれなくて、
オイラの胸はなんだかむずむずした。

(2008/03/20) だって、どっちかって言うと『好き』だし…。




79、反旗を翻す

「葉、次は強気に出てみれば?」

おばあちゃんとアンナを見送った駅で、
私はちょっと意地悪をしてみる。

「ちょっとは男らしいところ見せてみなよ」

そう言って横目で見ると、葉は真っ青になっていた。

「そ、そんな恐ろしい事……!!!」

ああ、駄目だ。
この男は一生尻に敷かれるタイプだ。

(2008/03/20) 葉の頭に『クーデター』という言葉は存在しない。





80、雑草

「雑草魂だね」
「雑草魂ね」

休日なのに家で安らぐ事もできず、
泣きそうな顔をして筋トレをする葉を見て僕たちは頷き合った。

毎年の事ながら賑やかな正月も無事終わって、
もう葉の天敵のアンナはいない。
でも、盆が来ればまた来る。
それが怖いのか、それとも意地になっているのか、
葉は自発的に筋トレに励んでいる。

「いつまで続くと思う?」
「1ヶ月に一票」
「同感。頑張って1ヵ月半、かな」

また僕らは頷き合って、葉を遠目で見た。

「受験もあるしね。アンナもそれくらいは大目に見てくれると思うよ」
「でも、多分ビンタはされるね」

三度、僕らは頷き合った。

(2008/03/20) 葉で賭けをする兄と従兄妹。




  メニュ