51、路地

「おぉ!」

ほぼ日課になっている散歩の途中、
なんだかいい感じの小道を見つけて、何の気もなしに踏み込んだ。
何て言うか、ノスタルジック、とでも言えばいいのだろうか。
曰く、オイラは懐古主義者らしいので、
こういう、ちょっと寂れた風景が大好きだ。

『今時レコードなんて、葉かマニアだけよ』

ちょっと前にそう言われた。
アンナと一緒に(最強のタッグだとハオが言っていた)。
アンナはCD派らしいので、MP3派のと意見が一致した。
ついでに、『Bobなんかよりもあわやりんごの方が良い』とも言われた。
これはアンナにだけ(それでも充分圧倒的だった)。

それでもオイラは今のオイラに満足している。
こうして細い道をのんびり歩く自分が好きだ。
懐古主義者だろうが何だろうが、
そんなのオイラの外壁でしかない。
…というのもに言われた。

「♪」

耳元で鳴る音楽に歩調を合わせて、ゆっくりと歩く。
それが一番幸せな時間だと、オイラはこっそり思っている。

(2008/03/12) 葉の散歩は最早放浪癖並だというのはハオの意見。





52、さざなみ

出雲にいると、海というものはとても身近な存在である。
どこに行っても海と空と大地しかない。
無駄なものは何もない。

「…何見てるの、

不意に声をかけられたけれど、私は白波から視線を離さなかった。
押しては寄せるやわらかな白波。

『月は静かに 海を引き寄せて』

何の歌だったろうか。
いつかどこかで聞いた歌。
それが頭の中で舞い踊り始める。

…?」

『そっと口づけしたいの』

「…ハオ、少しだけ、一緒に居て」
「うん」

ハオはさして疑うそぶりも見せず、私の隣に腰掛ける。
白い砂がギュッと鳴って、乾いた砂がサラサラと動く。

『月があなたで 私は海』

私の心はまるで薄い硝子でできているようで、
これ以上鼓動が強くなったら壊れてしまいそう…。

(2008/03/13) なぜか貴方の事が気になるのです。
※New man co.,Ltd.『海と月の光』より一部歌詞抜粋





53、ポケット

こういうのは珍しいかもしれないけど、
双子のくせに僕と葉の服はきっちりと分けられている。
色違いのものもあるけど、僕と葉じゃ微妙に服の趣味が違う。
葉はTシャツが好きだけど、僕はカッターシャツの方が好き。
そんなふうに。

だからよほどの事がない限り、
僕たちが互いの服を着る事はない。
サイズは全く同じだけど。

「ん?」

穿いたジーンズに違和感を覚えて後ろのポケットを探ると
小さなチロルチョコが入っていた。
僕はこんな物を入れた憶えはないから、
きっと葉が僕のジーンズを穿いて、
そのままポケットの中に入れたのだろう。

時間が経っているのか、少し溶けかけているチョコ。
……あいつ、一回ガツンと言ってやるべきだろうか…。
僕の服を勝手に着るのはまぁ許せるけど、
私物はしっかりと自分で管理しろ、って。
双子だからって、パーソナルスペースは存在するんだよ。

(2008/03/13) こうして兄のストレスは溜まっていく。





54、堤防

「♪」

細い堤防の上を、バランスを取りながら器用に歩いていく
足取りは軽い。
本当に軽業師みたいに歩いていくに、
オイラはちょっとハラハラしている。
色んな意味で。

危ない事を平気でするが落ちやしないかとか、
(尤も、出雲の中学生はだいたい経験済みだけど)
は学校規定を無視してミニスカートにしてるから
いつか風が吹いて捲れ上がらないかとか。
に限らず、女子のほとんどがミニスカートにしてるけど)

ー、スカート気を付けろよー」

の足の向こう側の夕日を眺めながら言うと、
ハッとしたようには後ろに手を回してスカートを押さえ、
何を思ったのかシャイニングウィザードを繰り出してきた。
オイラはそれを寸でのところで避ける。
アンナの修行が役に立った瞬間だった。

「ちょ…! な、何するんよっ!」
「鉄・槌!」

乙女のスカートの中は禁猟区なの!
そう、は珍しく頬を赤く染めて怒った。
全然怖くない。
特攻に驚いた心臓を宥めながらそう思っていると、
は上目遣いでオイラを見上げて、思いっきり頬を抓った。

(2008/03/13) 嬢が照れると可愛さが倍にも乗にもなる。





55、自転車

向かってくる潮風を浴びながら、自転車を飛ばす。
夕食の準備中にたまおが買い忘れに気付き、
代わりに私が買い物に出かけた。
ちょうどノートの買い置きが切れている事を思い出したから。

向かい風は微弱だけど、
自転車を漕げば漕ぐほど顔に当たる風は強くなる。
冷たい風は、火照った頬に気持ちいい。
追い風が吹いたときなんて、まるで自分が風になったみたいな気分になる。

風になりたいっていう暴走族の気持ちが分かる。
ピリオドの向こうが見たくなる気持ちも分かる。

「あと200m!」

沈みゆく夕陽と勝負するように足に力を入れて、
家まで最後のラストスパートをかける。

帰ったら、冷たい水を飲もう。
そう思うだけで、ペダルを漕ぐ足に力が入った。

(2008/03/13) 車のいない車道を疾走するのは、本気で気持ちいい。





56、待ち伏せ

「お帰り、

そう言うと、自転車を降りたばかりのはきょとんと目を丸くさせた。

もうそこまで夕暮れが迫っている、この黄昏時。
買い物に出かけたを、僕は心配になって家の門前で待っていた。

は猛スピードで自転車を飛ばしてきて、
家の目の前で華麗に停止し、着地した。

「ハオ、どうしたの…?」
「別に。時間が時間だから、ちょっと心配だっただけだよ」

そう言うと、はまた少し頬が赤くなったようだった。

火照った体のせいじゃない。
夕陽のせいじゃない。

「…うん、……ありが、と」

そう思って良いんだよね。
ねぇ、

(2008/03/13) 恋するハオは、ときどき少しだけ強気になる。





57、白と黒

オイラには許嫁がいる。
いるはずだ。
多分それは、青森のばあちゃんの所にいるアンナだと思う。
恐山アンナ。
オイラの許嫁(仮)。

がオイラを選ばない限り。
ハオがを選ばない限り。
アンナがオイラを拒絶しない限り。
オイラの嫁はアンナだ。

アンナが嫌とか、が良いとか、
そういう事じゃない。
オイラはアンナが好きだ。
アンナは好きだし、も同じくらい好きだ。
どっちでも、多分オイラは後悔しない。
いい加減な気持ちじゃなくて。
多分、本当に、幸せになれる。

ただ、オイラには決定権がない。
オイラの意志は関係ない。

コイントスみたいなもんだ。
オセロのチップみたいなもんだ。
表と裏が、白と黒が、
いまだに答えを出さないままくるくると回っているようなもんだ。

それだけの話。
それだけだけど、信じがたいくらい難しい話。
全ては、それだけの事なのに…。

(2008/02/24〜03/13) それが決まるのは、まだ先の事だけど。





58、散歩

「…結局こうなるのね」

買い物ついでに散歩に行くと声を掛けたら、
ハオと葉がくっついてきた。
自分も一緒に行く、と。

「嫌なの?」

各々手に持ったペットボトルの飲料水を弄びながら歩いていると、
右にいたハオが顔を覗き込んできた。
悪戯っぽい笑顔。
確信犯だ。

「嫌な訳ないじゃない」

ばか。
そう言うと、左にいた葉も笑った。

(2008/03/13) 気持ちが悪いくらい仲が良い三人。





59、あの日

猫のマタムネは僕が拾ってきた捨て猫だ。
拾ったときは手のひらに乗るくらいの小さな体だった。
その時マタムネは病気を患っていたけど、
動物病院に連れて行ったらすぐに治った。

「にゃー」

そのせいか、マタムネが一番懐いているのは僕だ。
大抵は縁側で日光と戯れているけど、
何の用もなく後ろを付いて歩くのは僕だけだ。
寝床も僕の部屋の隅だ。

「マタムネ、ハオってちょっと神経質よね」
「にゃー」
「ねぇ。マタムネもそう思うよねー」
「にゃー」

…今のは聞かなかった事にしていいかな、

がマタムネを抱き上げて畳に倒れ込むと、
そこに立っていた僕と目が合った。
それでもは余裕の表情でマタムネに返事を催促する。
マタムネは、…ちょっと焦っていた。
目が動揺をありありと語っていた。

その日から数日マタムネは僕に気を遣っているようだったけど、
それでもマタムネは僕に一番懐いている。
少し申し訳なさそうな顔をしながら僕の後ろを付いて歩く。

「マタムネ、の言う事なんて真に受けちゃダメだよ」
「にゃー」

マタムネは今日もYesなのかNoなのかよく分からない返事をくれる。

(2008/03/14) マタムネだけは僕の味方だよね…?





60、アスファルト

土の道を歩いていると、
アスファルトの道を歩くのはとても損をしている気がする。
特に世界中がキレイになる秋なんて、
地面を歩かずしてどこを歩くんだと思う。

オイラは自然が好きだ。
だから、この豊かな自然がそのまま残されている麻倉の敷地が好きだ。
麻倉家に生まれてよかったと思ってる。
だって、そうじゃないと今のオイラはいないわけだし…。

「奇麗だね」
「おお」
「ハオも一緒に来れば良かったのにね」
「おお」
「アンナもいれば良かったね」
「……おお」

そう言って悪戯っぽく笑うには、
オイラの知らない何かを知っているようだった。

(2008/03/14) 麻倉の嫁同士の秘密の繋がりは強固で頑丈。




  メニュ