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41、メロディー 時々、ふと頭の中に見知らぬ旋律が流れている事がある。 どこかで聴いた事があるような、でも全く新しいそれ。 多分、自作の、自分だけの旋律。 僕だけの、僕の気持ちを反映するそれ。 穏やかだったり、激しかったり。 それは僕の心と一緒に音階をなぞる。 僕の趣味が作曲だと言ったら、みんなは笑うだろうか。 僕はこっそり五線譜のルーズリーフを買って、 時々頭に浮かんだ旋律を書き留めておく。 それがいつか一つの曲になるのかは分からないけど。 完成させたいような気もするし、 バラバラのままでも良いような気もする。 「…♪」 僕は頭の中で動き回る旋律を捕まえて、そっと放し飼いにしてみる。 口ずさみ、自分の声に浸り、何度も繰り返したり、その先を模索したり。 もし僕の気持ちが全て音符で表す事ができたら、 それはとても素敵な事のような気がする。 「♪」 もう一度頭の中の旋律をなぞって、僕は静かに目を閉じた。 この音の意味は何なのか。 今の気持ちは何なのか。 もしそれが目に見える形で存在できるなら、 僕は誰のためにメロディーを辿るのだろう。 (2008/02/26) 作曲、鑑賞。形は違えど、音楽が好きな麻倉兄弟。 42、探索 そういえば、昔、オイラたちがまだ小さな子供の頃、 小学校にも上がってない、本当に小さな頃、 とハオと一緒に森を探検した事があった。 森って言っても、麻倉の敷地内なんだけど。 それで、小さな祠を見つけた。 その時既にこういう物には慣れ親しんでいたオイラたちだったけど、 誰もが初めて見る祠だった。 祠の中には下りの階段があった。 オイラたちはそれに入るかどうか物凄く迷って、 暗闇と密室という恐怖に負けて結局入らずに帰った。 あと、正体の分からない、身の毛のよだつような何かの気配があった。 帰った後、その祠が何なのかじいちゃんに訊いたら、 じいちゃんは二度とその祠に近付いちゃダメだって言った。 そのときのじいちゃんは怖かった。 もハオも、オイラと同じようにじいちゃんに怯えた。 あの祠が何なのか、オイラたちはまだ知らない。 まだ知らなくていいって言われた。 時が来るまでは…。 その『時』はまだ訪れない。 時々じいちゃんの言いつけを破って祠のそばまで散歩に行ったりするけど、 やっぱりその祠の周りはだけは他と空気が違う。 恐怖って言うよりも畏怖に近い。 もハオも、同じ事を言った。 ただ、ハオだけは何となくそれが何なのか知っているようだった。 じいちゃんたち大人も、それが何なのかを知っているようだった。 オイラは自然を完璧な形で守っている麻倉の敷地の中が好きだけど、 あの祠だけはなぜか好きになれなかった。 何となく、あれには近付いちゃいけないって、知っちゃいけないって、 心の奥が警鐘を鳴らしているような気がする。 (2008/02/27) アナザーワールド・オブ・ハオを垣間見る葉。 43、新世界 「麻倉先輩! ずっと前から好きでした!」 ………えーと…。 これは世に言う告白というものだろうか。 「あの…! 別に、付き合いたいとか、そういうんじゃないんです! ただ、先輩に私の気持ちを伝えたくて……!」 聞いてくれてありがとうございます! これからもずっと好きです! もし返事をいただけるなら、明日、同じ時間に、ここで待ってます! そう言って少女は走り去っていった。 走る姿まで愛らしい。 本当に絵に描いたように可愛く健気な少女だった。 「…………どうしよう…」 家に帰って、部屋に戻らず居間に直行する。 案の定、二人はそこにいた。 制服のまま立ち尽くせば、4つの目がこちらを訝しげに見つめてくる。 いや、困惑してるのはこっちも同じなんだけど。 「…今日、下級生の女の子に告白されたんだけど、どうしよう……」 生まれて15年弱。 同性に告白されるのは、多分、後にも先にもあれだけだと思う。 (2007/06/24) とりあえず、爆笑したおじいちゃんとは1週間口を利かない。 44、ソファー 「ラブソファーって、限定的な名前じゃない?」 畳の上に寝そべって通販雑誌をめくるに、 僕はちょっとドキッとした。 のそばにいってそのページを見ると、 二人掛けのソファーがたくさん並んでいた。 なるほど、二人掛けのソファーは、俗にラブソファーというらしい。 『二人=恋人』という公式なのだろう。 確かに密着できるし、恋人たちにとっては最高のネーミングだ。 「片親とか兄弟で二人暮らしの人にとっては最悪な名前だよね」 「…、うん」 「でも一人掛けよりは広々と使えていいかも」 「うん」 これなんか可愛い、とシンプルなデザインのラブソファーを指差すに、 僕はちょっと想像を膨らませてみた。 いつか、僕がと結婚して、二人掛けのソファーに座る。 僕たちの間には、小さな子供がいてもいい。 僕たちの子供…。 「…まぁ、でも、この家には似つかわしくないけどね」 今時、全室畳張りっていう超和風な家って、この家くらいじゃない? そう言って楽しそうに畳を叩くオルハを、 僕はしばらく間直視できなかった。 お願いだから、、今だけは振り返らないで。 僕の顔は、リンゴみたいに真っ赤になってるはずだから。 (2008/02/27) おかしいだろう。僕は君との未来を考えてしまうんだ。 45、人生ゲーム 人生は楽しまなくちゃ意味がないとは言う。 人生を楽しめるように生きるのが最良だとハオは言う。 要するに、どんなに苦しい事があっても、 それを乗り越えて楽しみを見出すのが上手に生きるコツだと、 そういう事なのだと二人は声を揃える。 『何とかなる』 オイラの生きる指針も、そういう意味では二人と同じだ。 「葉、明後日からおばあちゃんとアンナが来るってー」 ………。 …ただ、どうしても逃れられない苦もある。 それが『楽』も含んでいるから、余計に辛い事もある。 オイラ、明後日から苦楽をいっぺんに体験しないといけないらしい。 (2008/03/03) 恐妻(予定)アンナ襲来の予告は死刑執行にも似て。 46、SOS 「ちょっと、葉。あんた、前に会ったときよりも弱くなってるじゃない!」 昼下がりの庭で、恐山アンナは吼えた。 「あんた、こんな事で民宿が営んでいけると思ってんの」 「いや、民宿に電気イスは必要ないんじゃ…」 「うるさいわね! あたしに口答えするつもり!?」 直後、葉の悲鳴が聞こえた。 電気イス真っ最中の葉の弁慶の泣き所にローキックが入った。 あれは痛そうだ。 私は日陰になっている縁側でそれを眺めていた。 隣には葉とアンナを見てクスクスと笑うハオと、 葉を助けたいけどアンナには逆らえずにヤキモキするたまお。 「からも何とか言ってくれ…」 地に伏し、精一杯の声を絞り出した。 アンナと対等に話す事ができるのは私、麻倉唯一人だけ。 アンナは私を親友と認めてくれているのか、私の意見だけはちゃんと聞いてくれる。 でも、今のアンナにはあまり関わりたくなかった。 「体力テストの成績落ちてたから、いい修行になるんじゃない?」 そう言ってヒラヒラと手を振って、葉の救援要請を却下する。 アンナは勝ち誇ったように不敵に笑い、腕を組んで仁王立ちした。 鬼だ、と葉は呟いた。 直後、アンナの幻の左が出た。 (2008/03/07) 嬢とアンナは、麻倉の嫁同士の秘密の繋がりを持っている。 47、左利き アンナは左利きじゃないけど、 ビンタだけは右手よりも左手の方が威力を持っている。 バッチーンと木霊した平手打ちの音に、僕は思わず肩を竦めた。 僕はあれを食らった事はないけど、見ている限りでは相当痛そうだ。 「葉って学習しないなぁ…」 これはの意見。 僕もそれに同意する。 「葉様ぁ…」 泣きそうになっているのはたまお。 それは悪い事じゃないけど、葉にとって救いにはなっていないようだ。 「葉はアンナのお気に入りだからね」 「ねぇ」 僕たちは縁側でくつろぎながら、更なる恐怖に陥れられる葉を眺めていた。 僕じゃなくて、本当に良かったと思う。 (2008/03/07) ハオでもアンナは恐怖の対象。 48、放課後 夕焼けに染まる教室。 オイラは手元にあるメモを読んで首をうな垂れる。 それはアンナがオイラに残した書置き。 と言うか、指令書。 『腹筋100回、腕立て伏せ50回』 それが毎日のメニューらしい。 アンナはオイラをいったい何にしたいんだか…。 メモを見て憂鬱になるオイラを、間もなくハオとが迎えに来た。 帰り道は一緒でも、その後はオイラだけの特別メニュー…。 ちょっとだけ泣きそうになった。 (2008/03/07) 嵐が去ってまた一難。 49、反射 「あ、無事に帰れたんだ。良かった。民宿の方は大丈夫?」 『当たり前よ。誰に言ってんのよ、』 「ごめんごめん。だって、出雲と青森って遠いじゃない。心配だったのよ」 『…まぁ、別に悪い事じゃないけど…』 「ふふ。アンナは素直じゃないね」 そう私が口にした途端、葉が肩を跳ねさせた。 電話を片手に、私は葉の背中を凝視する。 「……アンナ」 もう一度口にすると、また葉が肩を震わせた。 『何よ。用があるならはっきり言いなさい』 「…あ、ああ。ごめん。ちょっと実験してたの」 『…?』 気にしないで、大した事じゃないから。 それから、おばあちゃんによろしく。 また電話するから、アンナも電話してね。 そう言って電話を切って、私は気配を消して葉の真後ろに立った。 「恐山アンナ」 葉の耳元で囁くと、葉は『ヒッ』と声を上げた。 …なるほど。 やっぱり、葉は『アンナ』という単語に過敏になっている。 確かに、アンナが来ていた3日間は地獄だっただろうけど…。 「葉、あんた男なんだから、それくらいで弱音吐かないでよ」 「そう言われても…」 薄っすらと汗を浮かべて引きつった笑顔をくれる葉に、 私は思わず大きな溜め息を吐いてしまった。 (2008/03/11) すでに現れている夫婦の上下関係。この二人を結婚させていいのやら…。 50、煙 「、まだ残ってるよ」 「ん? …あ、本当だ」 涼しげな浴衣に着替えたは、 腕や髪に染み付いた残り香に眉を顰めた。 の周りには、線香の独特の香りが漂っている。 まるで、頭から線香の煙を被ったように。 の鼻はちょっと麻痺しているようだった。 「本当に、あいつ、しつこかったなぁ」 「は気に入られやすいんだよ」 根が優しいから。 は照れ隠しに少しだけ鬱陶しそうな顔をして、 それから心の底から迷惑そうに口を尖らせた。 「あいつ、死んでるって気付いてたのに」 リストラが何よ、浮気が何よ。 さっさと成仏しろっての。 つい先ほど禊で振り払った浮遊霊を思い出しながら、 はくるくると器用に髪の毛を捻じって、 細い簪一本で髪の毛をまとめた。 「施餓鬼は面倒ね」 とっくに盆の終わった今の時期まで残っている幽霊が 可哀相なのか、そうでもないのか、 は遠い目をして真っ赤に燃える夕焼けを見ていた。 (2008/03/12) 不思議と、幽霊は線香の香りを残す。 |