31、羽根

もし私に羽根があったら…。
そういう事は、多分、人間一生に一回は絶対に考えると思う。
多分。

私は、羽根があるのなら両親に会ってみたい。
父さまと母さまじゃなくて、私の本当の父と母。
私が生まれ、間もなく交通事故で亡くなった二人。
私はその見知らぬ夫婦に会った事がない。
本当は一番近いはずの人間なのに。
盆にも現れてくれない。
それはきっと、私があたたかい家庭の中で健やかに育ってるって、
天国からちゃんと見てるからだと思うけど。

会ってみたい。
写真じゃなくて、直接。
一度くらい。

羽根があるなら…。

でも、もしそれが天国に行ったっきりの片道切符だと困るから、
やっぱり、私が往生するまで会えなくてもいいかもしれない。

私は幸せです。
私はもっと幸せになります。
ハオと葉とたまおとおじいちゃんとおばあちゃんと父さまと母さまがいるから。
私にはこんなにも素晴らしい『家族』がいるから。

私が幸せになって大往生するまで、
もう少しそっちで待っていてください。

(2008/02/19) 写真の中の両親は、いつも微笑んでくれているから。





32、砂嵐

「聞いたかよ、視聴覚室のテレビ!」
「聞いた、聞いた! 出たんだろ、幽霊!」

教室で次の授業の準備をしているとそんな会話を耳にして、
知らず知らずの内に耳を傾けていた。

内容は簡単だった。

隣ののクラスが視聴覚室で映画を鑑賞していたところ、
クライマックス近くで突然画面が消えて砂嵐が映り、
次いで女の呻き声が聞こえた。

怨んでやる、許さない、と。

髪の長い女が画面の端に映り、パキパキとラップ音も聞こえた。
もちろん一同騒然とし、誰もが慌てふためいて
暗幕の引かれた暗い視聴覚室内を行ったりきたりした。

その中で、一際大きい音がした。
ドゴッと、何かを蹴る音だったらしい。

「それきりだったらしいぜ。また映画が流れ始めたんだってさ」
「普通に怖いけど、ちょっと見てみたいよな」

……だ。
絶対にだ。
映画のクライマックスを邪魔されて怒ったんだ…。

「幽霊さ、まだいるんじゃねぇの?」
「だよな。先生は機械の故障だって言ってたけど、絶対に幽霊だって」

……だから、幽霊だけど、なんだって…。

麻倉の人間としてを褒めるべきか、
それとも人として横暴すぎると諌めるべきか。
僕は頭を抱えて、本気で迷った。

(2008/02/20) 嬢は浄霊ではなく、強制撤去をしたようだ。





33、意志

葉には明確な志がないと、よく言われる。
色んな人に。
ハオにも言われるし、も時々言う。
じいちゃんは黙認、父ちゃんと母ちゃんは放任。

それはオイラに向上心がないからだと思う。

だって、別に『こうなりたい』とかっていう希望はない。
今を生きる事が大切だと思ってるから。
楽をして生きたいわけじゃない。
ただ、今のまま楽しく生きていきたいとは思う。

何とかなる。
それがオイラの口癖で、生き方。

オイラは、過去よりも未来よりも、
もう二度と取り返せない『今』を大切にしたいから。

(2008/02/24) だから志なんてなくても生きていけるんよ。





34、69(六十九)

60、61、62、63…

気分転換に散歩をしてくると言って家を出て、
何も考えずにいつもの散歩コースを歩いた。

夕焼けに赤く染まる、広大な麻倉家の敷地。
木々の緑さえも赤を受けて美しく輝く。

64、65、66…

一番好きな小川のそばまで来て、折り返した。
そうしてしばらくは空を見上げながら歩いて、
何となく歩数を数え始めた。

67、68…

「お帰り、

70歩を目前に、ハオが私を迎えに来ていた。
もうすぐご飯だって。
そう言って微笑むハオに、私はどこか息苦しさを感じる。
この痛みは何だろう。
この、胸を掻き毟りたくなるむず痒さは…。

69…

ハオは私の手を取り、優しく握る。
強くもなく、弱くもなく、確かに私の手を握るハオ。



何も考えずに歩数を数える事は、もうできなかった。
私はハオの手を恐る恐る握り返し、連れ立って我が家へと足を進めた。
どうしてこんなにも息が詰まるのだろう。

二つ並んで伸びる影は、細い腕で繋がっていた。

(2008/02/24) この、甘美な痛みは何だろう…。





35、希望

「お前はいつか、麻倉の家を継ぐんじゃ」

そう、昔じいちゃんに言われた。
大家麻倉の当代のじいちゃんに。
それは僕の将来の決定だった。

別に、なりたいものがあるわけじゃない。
そんな希望を抱くような歳に言われた事じゃないから。
僕はただそれを黙って受け止めた。
受け止めて、今はそれを納得できている。
僕は長男で、力のある人間だから。
それが当然であり、世の理だと思っている。

だけど、できれば、僕は。
僕の愛する人と一緒にいたい。

それ以上は、何も望まないから。

(2008/02/24) だから、お願い…。





36、プラネタリウム

風呂上り、自分の部屋に戻る途中で窓の外を見た。
最近は、夜になっても熱気が残るようになった。
夏が近付いている。

それでも時折吹く風に濡れたままの髪を揺らしていると、
少し向こうの窓の枠に腰掛けているが目に入った。
窓の外は1階の屋根だから、落ちる心配はない。
は空を見上げ、空に向かって手を伸ばして
両手の親指と人差し指で輪を作っていた。

、そんな所で何してるんよ」

危ねぇぞ。
そう言ったら、はオイラに目をくれないまま微笑んで、
片目を瞑って輪の中を覗いた。

「見て。星が手の中に入ってる。プラネタリウムみたい」

そう言ってはオイラにもするように促した。
オイラはと同じように手を空に向けて伸ばして、
両手の親指と人差し指で輪を作る。
確かに、その中に閉じ込められた星は、プラネタリウムみたいだった。

「きれいだな」
「うん、きれい」

そうしてしばらく二人で即席のプラネタリウムを作って、
互いに顔を合わせて笑った。

(2008/02/24) そして間もなくハオも加わる。





37、四季

私は、本当に日本に生まれて幸せだ。
春夏秋冬、その季節全てに美しさがある。
春は曙、夏は夜、秋は夕暮れ、冬はつとめて。
それはかの有名な清少納言の言葉。
その季節ごとの、1日の中でも一番美しい時間帯。
枕草子だけじゃなくて、日本人は些細な事でも風流を楽しむ。

だから、私は繊細な心を教育される日本人が好き。
そんな環境に生まれた私は幸せ。
容赦なく照りつける太陽を北向きの縁側でしのぎ、
スゥッと通り抜ける風に頬を優しく撫でられ、
光と影と境界線を目でなぞりながら、
ハオと葉とたまおの4人で冷たいアイスを頬張る。

そんな時間を悠長に楽しめる日本人で良かった。

(2008/02/24) そんな、何でもない時間が一番好き。





38、プレイス(Place)

僕の一番大切な場所。
僕の一番大切なもの。

A place in the sun
日の当たる場所。

それは、僕にとってはただ一つだけ。

(2008/02/24) 僕は彼女の笑顔を追う向日葵だから。





39、フレーズ

時々、ふと耳にした音楽の一部が頭の中だけでリピートされる事がある。
それは仕方のない事だと思う。
だって、気になるもんは気になる。

人間の性質とか、体の構造とか、脳の働きとか、
そういう、オイラじゃ理解できないけど、確かに体感している事。

『一万年と二千年前から愛してる』

……ああ、また始まった。
これは最近CMでよく聴く歌のワンフレーズ。
それが頭から離れなくて、オイラは気を紛らわすためにMDを聴く。

でも、やっぱり、それは頭の中にこびり付いて離れない。

『一万年と二千年前から愛してる』

それって、良い事なんか、悪い事なんか、オイラにはよく分からない。
同じ人間に1万2千年前から愛す事が良い事なのか、
同じ人間に1万2千年も捕らわれるのが悪い事なのか。

でも、もしオイラがそういう人間に出会えたら、
やっぱり幸せに感じてしまうんだろうか。
もしその相手がオイラを1万2千年前から愛してくれてたら、
それは果たして幸せな事なんだろうか。

『一万年と二千年前から愛してる』

……あぁ…、今回は厄介だ。
MDでもかき消されないくらい強く頭に残ってる。

嫌じゃないけど、ちょっと気持ち悪い…。

(2008/02/26) 例のアニメのパチンコのCMソング。





40、泣き笑い

人生って上手くいかないなーって、常々思う。
ちょっとした些細な事で。
私はまだ子供だから、自分の力じゃどうにもできない事が多すぎる。

楽しい事もあるし、悲しい事もある。
辛い事もあるし、嬉しい事もある。
好きなところも、嫌いなところも、たくさんある。

のままでいいんじゃねぇか?」

『私のまま』が何なのか、まだ分からないけど。

「僕は、である事が一番だと思う」

『私である事』がどういう事か、まだ分からないけど。

好きな事も、嫌な事も、全部受け止めてあげて。
目を逸らさずに。
全部まとめて『』だから。
そんなが好きだよ。

そう言ってくれた私の大好きな双子。
私はいつかこの二人に報えたらいいと思う。
大好きな双子、私の従兄妹。

私も、二人が二人で良かった。
他の誰でもない、ハオと葉で良かった。

これが愛なのか何なのか分からないけど。
答えは要らない。

私が二人を大好きだって言う事実があれば、
それで良い。

(2008/02/26) だって、私たちはいつも『個』であり、『全』だから。




  メニュ