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11、滴 「うへぇ、びしょびしょだ…」 学校から帰る途中に突然降ってきた雨。 それらしい兆候がなかったかと言えばそうではないけど、天気予報では夜までは降らないと報道されていた。 まぁ、それを100%信じてたわけじゃないけど、それなりに信じていたのは事実だ。 僕たちはとりあえず雨宿りができそうな所まで全力で走った。 「二人とも大丈夫? 寒くない?」 「それは平気だけど、全部びしょ濡れだ。帰ったらシャワーでも浴びんとダメだな」 「葉なんてまだ良い方だよ。僕たちみたいに髪が長いと、乾くのに時間がかかるんだから」 「私なんて、天パだから雨の日は髪の毛が広がっちゃうのよ」 「あーあ。天気予報じゃ夜からのはずだったのにな…」 口々に文句を並べる僕たち。 三人が入るには狭い、小さな店の小さな屋根。 明日の朝には晴れてるかな、とか、教科書は無事かな、なんて考えてみる。 「まぁね…。天気予報なんて外れるためにあるようなもんだから」 そう言って目を伏せた。 小さい水の粒がの睫毛の上に乗っていて、それがたまらなく綺麗だった。 (2004/05/07) 天然パーマにとって、雨の日は地獄です。(切実) 12、曇 あれからなんとか家に帰って、順番にシャワーを浴びて、 着替え終わったオイラたちが最初にした事は、テレビの前に並んで天気予報を見る事だった。 「明日は曇り後雨だってー」 「降水確率は50%…。微妙なところだね」 「やっぱり、降るんかなぁ…?」 とりあえず、明日は傘を持って行こう。 今日みたくびしょ濡れになるのはごめんだ。 (2004/05/08) 次の日は朝から雨が降っていた。やっぱり、天気予報なんて大嫌いだ。 13、通り雨 「うわっ! たまお、雨だよ!」 「え…!? た、大変です! 洗濯物がまだ外に…!」 「急がないと、また洗濯のやり直しになっちゃう!」 「はいっ!」 あと少しで乾きそうだった洗濯物のために、私たちは急いで外に出た。 傘を差す暇がないくらい、とにかく急いで家族7人分の大量の洗濯物を取り込む。 もう一度7人分の洗濯をするというのは、何があっても避けたいところ。 雨は嫌いじゃないけど、こういう時の通り雨だけは好きになれない。 (2004/06/06) でも、通り雨の後の空は大好き。 14、虹 とたまおが躍起になって洗濯物を取り込み終えた次の瞬間、 皮肉にも空は青く晴れた。 雲は全て消え失せ、青い空の真ん中には太陽が輝いている。 さぞ、頭にきた事だろうね。 「もう、だから通り雨は嫌いよ!」 「様、私、竿を拭く雑巾を取ってきますね」 「ん、お願い」 たまおが洗面所に向かったのを見届けると、は縁側から降りて外に出た。 不機嫌なは、心なしか行動まで殺気立っている。 それでも真面目に洗濯を続行するは偉いと思う。 「あーあ、ほんと、ヤになるわ」 燦々と輝く太陽を受けながら庭に立つ。 噎せ返るような湿気の立ち込める、雨に濡れた草木の緑。 はその中に、すんなりと受け入れられていた。 「……あ、虹…」 見上げた空には、プリズム現象によって出来た大きな虹。 虹のアーチの中に立つは、神話に出てくる虹の女神のようだった。 (2004/08/11) 部屋の中からそれを見つめるハオ。少しは手伝ってあげてください。 15、カレンダー 「………『デェト』…?」 宿題を手伝ってもらった後に風通しの良いの部屋でダラダラしてると、 ふと、日頃あまり気にしないカレンダーに目が留まった。 床に寝ているから視界に入るか入らないか程度なんだけど、 壁にかかったそれには、ピンクのペンではっきりと『デェト』と書いてある。 日付は次の日曜日…明後日だ。 『デェト』とは『デート』の事だろうな、とぼうっと思い、それから急いで身体を起こした。 「どうしたの、葉?」 「いや………」 落ち着け、落ち着け、落ち着け。 は可愛いし、性格良いし、従兄妹のオイラが言うのもアレだけど はっきり言って以上に可愛い奴はいないんじゃないと思う。 身内の贔屓目かもしれないけど。 が告白されたっていうのも何度か聞いた事がある。 今までは全部断ってるらしいけど、それでも諦めてない奴も多いし、 うちのクラスの男子だって、狙ってる奴けっこう多いもんな…。 ちらりとを見ると、何食わぬ顔で本を読んでた。 いつもの事ながら、何考えてるのかさっぱり分からん。 「……そ、れって、『デート』……だよな…?」 「あ…、ああ、これ?」 平静を装いながらカレンダーを指差しながら言うと、はあっけらかんとして答えた。 は全く動揺してない。 オイラがドキドキして張本人のが平然としてるなんて、なんか逆な気がする。 「…相手、オイラの知ってる奴か…?」 なるべく興味なさげに聞いてみるけど、やっぱりちょっとだけ声が裏返った。 「……同じ学校の、奴…?」 「あー、うん。これね、」 たまおなの。 答えを聞いて、オイラは拍子抜けした。 最近出来た服屋に買い物にいくらしい。 …何だ、心配して損した。 「ね、ビックリした? 自分でもこう書くか迷ったんだけど、遊び心があって良いかなぁって」 ハオも引っかかったんだよ。珍しいよね。 笑いながら言うは、本当に楽しそうだった…。 (2004/09/14) 嬢は双子で遊ぶのが大好きらしい。 16、陽射し 「暑いね」 「そうだね」 「冬は温かい日が恋しいのにね」 「でも、今は鬱陶しいだけだよね」 「うん。太陽が憎らしいよ」 「でも、は冬になったら雲が憎いって言うんだろ?」 「うん、多分ね。でも今は雲が恋しい。早く太陽を隠してくれないかな」 「太陽がなかったら生きていけないのに?」 それでも太陽を隠して欲しいって言うの? 隣で空を見あげるハオは、何が楽しいのか分からないけど じぃっと一点だけを見つめていた。 「うん。………人間って、勝手だよね」 (2004/09/16) ハオとの対話。きっと葉は二人の隣で寝てる。 17、宇宙 「この宇宙って、4番目のものらしいよ。全部で7回の寿命のうちの、折り返し地点みたい」 縁側の柱に寄りかかりながら分厚い本を眺め、は言った。 は昨日から、分厚い黒い本を読んでいる。 図書館で見つけた本らしく、『神智学』という題名の退屈そうな本を四六時中読み耽っていた。 本を読み出すと時間を忘れるのは、の悪い癖だった。 それがどんなに詰まらない本でも、は最後まで読む。 本の後ろについている貸し出しカードを見ても、案の定、の他に借りた人間は二人だけ。 よくもまぁ、そんなに誰にも見向きされないような本を見つけてきたものだ、と僕は呆れた。 (葉は毎度の事だろ、と適当に流していた) 活字中毒と呼ぶに相応しいかも知れない。 そして、はたまにこうやって自分が面白いと感じた部分を僕たちに教えてくれる。 だから、今回もそれをある程度は予想をしていたのだが、突然何を言い出すかと思えば、 宇宙の寿命が7回だの何だの…。 葉も僕も半ば呆れていたが、の言った内容が興味をそそるような事だったので、 僕は顔を上げて聞き返した。 「……その本に書いてあるの? 宇宙って、6回も生き返るんだ」 「うん、神智学によればね。で、地球は、一回の宇宙の寿命の中で生まれる7つの星の中の4番目。 丁度、真ん中の真ん中なんだって」 「へぇ〜……」 葉はあまり分かっていないようで、また適当に流していた。 それでもは満足らしく、本に目をやったまま言った。 「宇宙って、本当に途方もなく長生きで、しかもそれを7回も繰り返すんだって」 は葉に向かって、葉も読んでみる? と訊いていたが、全力で拒否されていた。 僕は、そんな二人の姿(主に)を見ながら思う。 「……もしそれが本当なら、僕たちが出会う確立って信じられないくらい低いよね…。 この広い宇宙でと従兄妹になれて、すごく嬉しいよ」 僕がそう言うと、は驚いたような顔をしていた。 「…………ずっと思ってたけど、ハオって意外とロマンチストだよね」 「あ、オイラもそう思う」 …………。 ……葉、憶えてろよ…。後から仕返ししてやる。 (2004/10/28) 嬢の本の趣味は、広く深く、果てしなく。 18、流れ星 今日は何十年かに一度の、何かの星座の流星群が現れる日らしくて、 オイラたちは誰からともなく集まってきて、真夜中の庭で夜空を見上げていた。 「あ、見て。流れ星第一号!」 「おお! あっちにも流れてるぞ!」 「やっぱり綺麗だよね、流れ星は」 は子供のようにはしゃいで、今はもう消えた流れ星を指差した。 「願い事しなくて良いの?」 昼間よりも何倍も楽しそうなハオが言うと、は親指を立てて笑った。 「大丈夫。1時間くらい流れ続けるから、焦らなくても平気だよ!」 そしては胸の前で手を組み、凛とした声で願い事を口にした。 こういう時のは、決まってキリスト教徒にみたいになる。 そして、それがまた綺麗で、オイラたちはに釘付けになる。 「どうか、いつまでも幸せでいられますように」 そう言い終わると、は満足そうに微笑んだ。 「…ん? 願い事って、3回言わんとダメなんじゃないんか?」 「良いの。3回分の気持ちを込めたから。星だって大目に見てくれるよ」 「そうなの? 今から死んでいく星は、そんなに心は広くないと思うけど…」 「でも、3回早口で言うより、心を込めて1回言う方が絶対に効果あるよ」 「そんなもんなんかな…?」 それきりは願い事をしなかったけど、多分、の願いは叶うと思う。 の願いをオイラたちが聞いた以上、オイラたちは全力でそれを叶えようとするんだから。 (2004/11/30) 流れ星は死に際の輝きだから美しい。 19、カラス 蒸し暑い空気が風に一掃される黄昏時。 今日もいつものように三人揃って宿題をしていた。 私たちはそれぞれ宿題をするスピードが違うから、 まず初めにハオが終わって、それからすぐに私が終わって、 それからしばらくしてもまだ終わらない葉を二人がかりで手伝う。 それで私が夕飯作りの手伝いのために抜けて、ハオがその直後に葉を見捨てる。 葉の宿題はそれまでに終わる事もあるし、終わらない事もある。 大抵終わらないけど。 この流れは毎度の事で、徐々にパターン化してきてる。 ここらで葉の頭脳を活性化させる必要があるんじゃないかな。 私は庭の木に止まっている黒いカラスを見て、それから言った。 「カラスって、意外と賢いんだって」 何でもないように言った一言でも目を合わせるだけでハオは全てを理解したらしく、 さり気なく調子を合わせてくれた。 「…ああ、よく言うね。人間が試行錯誤して作った罠もすぐに出し抜くんだろ?」 「うん。テレビとかで凄いよね。都会のカラスはもう人間の手に負えないくらいなんだって」 そこで、ちらりと葉を見る。 「…………葉とカラス、どっちが頭良いのかな」 無表情にそう言ってやれば、葉は落雷でも受けたかのような顔をした。 カラスと比べられたのが相当衝撃的だったらしい。 「……お、オイラ…カラスなんかに…」 「分からないよ、葉。カラスは足し算や引き算の計算もできるらしいからね」 「!!!!」 ふふんと笑ったハオの顔が、本気で楽しそうだった。 ハオ、何か葉に恨みでも持ってるのかしら…。 今日の事がそんなにショックだったのか。 それからしばらくして、葉の成績が僅かだけど上がった。 (2006/09/21) 枕の事(『8、夜』参照)を、ハオはまだ根に持っています。 20、攻守 「葉、いつも言ってるよね。出したら片付ける、って」 「…はい」 「1回言ったら分かるよね、もう小学生じゃないんだから」 「…はい…」 「レコードは、デリケートな物です。ディスクも、プレーヤーも」 「……はい…」 日曜日の昼前、縁側で葉が正座をさせられて怒られていた。 葉は寝巻きのままで、は葉の前に腕を組んで仁王立ちしている。 は静かに怒っているし、葉は俯いて返事をするばかり。 何を怒られているかと思えば、どうやら葉の部屋についての事らしい。 葉は別段片付けをしないとか部屋を汚くするとかってわけじゃないけど、 レコードに限ってはその辺りに放置する癖がある。 葉は無類の音楽好きだから、聞きだすとそっちに夢中になってしまうらしい。 (特に、ボブって奴の歌。僕にはその良さがよく分からない) で、今朝葉を起こしに行ったに見つかったんだな。 多分、部屋に入ったがレコードを踏みそうになって驚いたのだろう。 「今の時代、レコードは貴重なんだから、大切にしなさい。宝物なら、自分できちんと保管しなさい」 「………はい…」 「次に床にばら撒いてたら、一つ残らず踵落としで真っ二つにするからね」 「…………はい…」 「ボブのレコードもダーツの的にするからね」 「…………」 は普段滅多に怒らないけど、こうしてたまに怒ると、 ちょっとやそっとじゃ解放してもらえない。 しかも正論だから逆らえない。 (今回は葉が完全に悪いけど) (でも、が怒るのはそういう場合に限ってだから、いつもに非はない) に怒られている最中は、防戦一方になってしまう。 しかも、しばらく怒られ続けているらしいのか、今や葉は完璧に涙目だ。 僕もちょっと葉の気持は分かるけど、関わるのは嫌だから遠くで見てる事にしよう。 はっきり言って、怒ったには、近付きたくない。 (僕まで怒られるなんて、絶対に嫌だ) (2007/03/01) ハオも、たまに嬢に怒られるらしい。 |