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91、デイ(Day) 朝起きたらハオに今日は何の日でしょうと言われて、 少し考えてからホワイトデーと答えた。 「はい、お返し」 そう言って私に小さな箱を押し付けて、 流れるような動作で頬にキスをして去っていった。 緩やかに揺れる髪の毛が廊下の角へ消えていく。 いったい何のつもりなんだろう…。 新しいスタイルの嫌がらせか? バレンタインデーのときのプチトマトが相当効いたのだろうか。 私は呆然と立ち尽くして、たまおに声を掛けられるまで動けなかった。 本当に、何のつもりなんだろう…。 (2008/03/23) 宣戦布告のつもりです。 92、いつかどこかで そう、僕はもう決めたんだ。 いつか、どこかではっきりさせなくちゃいけない事。 もう逃げるのは止めたんだ。 人間、当たって砕けろ、だ。 少し自暴自棄になっているのかもしれないけど、 それでも良いと思った。 その自棄が勇気に繋がれば、それで良いと。 いつかどこかで必ず通らなくちゃいけない道。 それを僕は選んだから。 だから、僕はもう迷わない。 もう、後戻りはしない。 (2008/03/23) 腹の中で何かを企むハオさん。 93、遥か彼方 「葉、ここ間違ってる。ほら、ここ。簡単な計算ミスだよ」 「おぉ…、そっか。悪ぃ」 「ここも違う。これはそもそも使う公式が違う」 「…うん? そうなんか?」 ハオとに両脇を固められて、 オイラは机の上の問題集と格闘している。 後もう少しで高校入試が始まる。 オイラたちが志望しているのは、一番近くの高校の普通科。 有名な進学校じゃないけど、それなりの頭は必要だ。 ハオもももっと上が狙えたけど、 高校も三人で通いたいからって随分レベルを下げた。 多分、近いっていうのが一番の理由なんだけど。 学校の先生は揃いも揃って…、と呆れていた。 それで、だから、オイラはそこに確実に入らなくちゃいけない。 二人の期待を裏切らないために。 社会と理科は暗記、国語と英語は理解力。 だから後は数学の応用。 たったこれだけなのに、随分と苦労している。 「葉、こんな事じゃ落ちるよ」 僕との努力を無駄にしないでよね。 最近スパルタになってきたハオが冷徹に言う。 ああ、オイラ、高校生になれるんかな…。 (2008/03/23) 『なれるんかな』じゃなくて『なるの』と嬢に叱られた。 94、限りある 授業も全部終わって、受験も終わって、 私たちはもうすぐ卒業する。 3年間過ごした校舎とももうすぐお別れになってしまう。 出雲の小さな中学校、小さな校舎。 中学校の3年間、色んな事があった。 忘れられない年中行事もあったし、些細な日常も好きだった。 近親者だから私たち三人が同じクラスになる事はなかったけど、 それはそれで面白かった。 誰が何組になるか、みんなで賭けみたいな事もした。 「もうすぐさよならだね…」 誰もいない廊下、そう言って壁に背中を預けた。 コンクリートの冷たい白い壁。 目を閉じれば、3年間の思い出が走馬灯のようによみがえる。 「お別れって、寂しいね」 誰もいない廊下、誰もいない校舎。 誰に言うでもなく呟いたら、 それに呼応するように、柔らかな春の風が廊下を駆けていった。 (2008/03/23) 別れの季節はこんなにも愛おしい。 95、苦笑 「やった! 三人揃って合格!」 そう言ってがぴょんと跳ねた。 目の前にある掲示板には、僕たち三人の番号が書かれていた。 まぁ、僕とは当然だと思うけど。 葉は間違いじゃないか何度も確かめて、 に抱き締められてようやく合格を実感したらしい。 ようやく笑顔を見せて、と一緒になって喜んでいた。 「葉、これでまた三人一緒だね!」 は周りの目を憚らずに葉とじゃれ合って、僕も抱き締めてくれた。 同じ中学校の生徒は毎度の事かと呆れていたけど、 他校の生徒は少し驚いているようだった。 「みんな一緒!」 よほど同じ高校に入学できた事が嬉しいのか、 の興奮はいつも以上だった。 そんなにつられて、僕もつい笑顔が零れた。 (2008/03/23) ちなみにハオは主席合格で新入生代表に選ばれた。 96、クローバー 志望していた高校に三人揃って合格して、 春からまた一緒に学校に通えるようになった。 はそれを一番喜んでいて、 ハオは『僕たちの努力が報われた』と皮肉った。 口ではそう言ってるけど、やっぱりハオも喜んでくれている。 そんな二人の一歩後ろを歩きながら、 オイラはポケットの中から一枚の栞を取り出した。 四葉のクローバーの押花の栞。 オイラの合格が危ういと知ったアンナが送ってくれたものだ。 幸せになれる四つ葉のクローバー。 オイラもその希少性を知っているから、 これを手にしたとき、本気で合格しなければと気を引き締めた。 アンナが一生懸命探してくれた四つ葉のクローバー。 青森はきっとまだ寒くて、クローバー自体が生えてないだろうに。 寒い中、どんなに時間がかかった事か。 オイラはそれを大切にポケットの中にしまって、 帰ったら絶対に電話でアンナにお礼を言おうと決めた。 (2008/03/23) そして『当たり前でしょ』と一蹴される。 97、息を止めた 「君が好きだ」 一瞬何を言われたのか分からなくて、私は硬直した。 目の前にいるのはハオ。 私は瞬きをする事さえ忘れて、世界で一番長い1秒を過ごす。 1秒、2秒、3秒…。 時だけが残酷に過ぎていく。 「ハオ…?」 何が何だか分からなくて、私は彼の名を呟いた。 何かの間違いではないのか、と少し期待して。 でもそれが本当の事なのだと、頭のどこかでぼんやり思って。 「好きだ。、君が好きなんだ」 再び、三度、『好き』という言葉が繰り返される。 『私はいつか麻倉に嫁ぐ』 今まで答えを出さないままでやり過ごしてきた事実が頭を支配する。 「ねぇ、。僕だけのものになって」 引き寄せられ、きつく抱き締められる。 痛いくらいに、強く、強く。 私は眩暈を感じて、卒倒しそうになった。 (2008/03/23) ただ私は、現実から逃げていたかったんだ。 98、無駄な夢 最初に言っておこう。 僕は、決してを苦しめるために言ったわけじゃない。 僕はただ、膨れ上がったへの気持ちを、 今ようやく外に出しただけなんだ。 僕がを好きだって言う事は、決して軽い事じゃない。 僕は麻倉の跡取りになる。 次代の僕がを嫁に選んだ。 分家のはそれを断る事はできないし、 もし断っても、今までと同じじゃいられない。 それでも、僕は言ってしまう事にしたんだ。 僕はの正直な答えが聞きたい。 麻倉の本家とか分家とか関係なく、 ただ僕を一人の男として評価してほしかった。 嫌いなら嫌いだって、はっきりと言ってほしい。 僕がそれだけの価値を持っているのか、ちゃんと教えてほしい。 「、答えて。僕は君の愛に値するのか」 お願い、。 君を苦しめるためじゃないんだ。 ただ、君が欲しかったんだ。 僕は君が欲しいだけの、ただの子供なんだ。 (2008/03/23) 君だけが、僕の心の安寧を脅かす存在なんだ。 99、1つと無い ハオの様子を見ていたら何となくそうかな、って感じてはいた。 ハオはが好きだ。 多分この世で一番、誰よりも。 オイラがを想う気持ちとは違う想いを抱いている。 を見る目があんなにも優しい事を、オイラは知っていた。 第三者だから、二人と一番長くいたから。 オイラには分かっていた。 ハオはが好きだ。 従兄妹だからとか家族だからとかじゃなくて。 一人の人間として。 ハオはが好きだ。 その気持ちが報われるかどうかは、オイラには分からない。 の心が読めるわけもなく、未来が読めるわけでもなく。 でも、ハオはが好きだ。 それが二人の世界に、どんな意味を齎すのか。 オイラには分からない。 (2008/03/23) けれど本当はどこかで、その答えを見つけていたんだ。 100、その形 好きだなんて、考えもしなかった。 愛だなんて、未知のものだった。 誰が誰を選ぶかなんて…。 嘘。 考えすぎて、考える事から逃げていた。 本当は、とっくの昔に答えは出ていたはずなのに。 私はもう少しだけ、何も知らない子供のままでいたかった。 この曖昧な状態に甘んじていたかった。 けれど私は、この心に決着を付けなければならない。 もう自分に嘘を吐くのは、自分を騙すのは止めよう。 舞い散る早咲きの桜の木の下で、私は一つ前に出る。 恐ろしいほどに美しい桜が私たちを包む。 風が、花びらが、私たちを小さな世界に閉じ込める。 春は、もうそこまで来ている。 私はハオの頬に手を沿え、生まれて初めて口付けをした。 おじいちゃん、おばあちゃん、父さま、母さま、葉、アンナ、たまお。 聞いてください。 これが私の素直な気持ちです。 「私も、ハオが好き」 これが、私の出した答えです。 (2008/03/23) 貴方が、誰よりも、いとおしいのです。 |