【2003年1月2日】

去年の年末から今年の三箇日までの数日間、
は近くの神社で巫女のアルバイトをする事になった。
うちの高校は基本的にアルバイト禁止だけど、完全にじいちゃんのコネだった。
学校側も、『麻倉さんなら…』と承諾書を渡していた。
の学内の成績と、出雲における『麻倉』の力だ。

だからは、今年は神社で年越しをして、
僕たちは除夜の鐘をその神社の境内で聴いて、
深夜なのに人でごった返す神社で初詣をして、
働くにちょっと見惚れて(僕だけ、かな…?)、
それから帰ってきたと一緒に年越し蕎麦を食べた。

「人間って単純よね。こういうときだけ神頼みしちゃってさ」

実はかなり寒いらしい巫女装束から振袖に着替えたは、
新年早々愚痴を振りまきながらお雑煮を食べた。
寒いし、忙しいし、祝日返上だし、そのくせ時給は安いし。
巫女のバイトはかなりきついらしい。

「除夜の鐘で煩悩祓ったんなら、願い事なんてなくなるはずでしょ」

尤もだ。

元旦は巫女に徹して、2日に休みをもらったは、
それはもう正月なんてどうでもよさそうだった。
振袖を着たのは母さんの玩具になっただけ。
一応『麻倉』の人間らしく。
僕も葉もたまおも着物を着て(或いは着せられて)いる。
紅に白牡丹の柄の入った振袖も、何だか疲れてるように見えた。

「私ね、1年の中で大切な日って、自分の誕生日だけだと思うの」

暦なんてなくても、生きていく上で何の問題もないでしょ。
そう言ったら、『正月早々不届きじゃ!』ってじいちゃんに怒られていた。
もちろん、は迎撃したけれど。

(2008/07/23) 究極的な話、確かにそれは的を射ている。と、ハオは思う。





【2003年4月某日】

今日からオイラたちは高校三年生、最終学年になった。
進級した瞬間から受験だ受験だと捲し立てられて嫌気が差したけど、
こればっかりは、しょうがないなぁと諦めるしかなかった。

オイラは一応ばあちゃんの民宿を継ぐために、
経済学部に入学しろ、と、アンナから命令が下っている。
これは多分、絶対に曲げられない。
後が怖いから。
当のアンナは調理師免許を取得するために家政科に進学する。
ついでに女将修行もするらしい。

ハオは『麻倉』を継ぐために、神学部か、宗教系の学部に進むらしい。
勉強よりも修行をした方が効率的だと思ったけど、
何をするにも知識とは必要なものだと、じいちゃんとハオは口を揃えた。
だから、特に揉める事もなく進学が決まった。
オイラたちは同じ学校に行こうと、色んな学部のある大学を選んだ。
結果的に、東京にある大学になった。

そしては。

は嫁ぐと言った。
ハオの嫁になると言った。

卒業後は『麻倉』として仕事をする。
ハオよりも先に、じいちゃんと同じ道を歩むと言った。
だから、高校最後の1年間。
は受験勉強の代わりに修行をすると言った。

「私は麻倉の嫁だから」

そう言ったの手は、少し震えていた。
ハオはその小さな手を、優しく包み込んだ。
二人で決めた事なんだと、嫌でも分からされた。

が決めた事なら、オイラが何を言ってもどうにもならない。

「私、後悔なんて絶対にしないから」

三社面談で進学を勧められたとき、家業を継ぎますとは宣言したらしい。
の成績なら、どんな大学にでも入れるだろう。
それでもはそれを蹴り捨てた。
強いな、と思った。
同じ17歳で、人生の道を見つけた
オイラには、眩しすぎて、その小さな体を抱き締める事しかできなかった。

(2008/07/23) 全ては己の信ずるがままに。





【200 3年5月12日】

ハオと葉が、今日、18歳になった。
日本男児が結婚できる歳。
二人はようやく一人の『麻倉』として見なされ、本格的な修行が始まる。
そして17歳の私は。
ハオと婚姻の儀を交わした。

進級した頃からずっと、ハオと話し合って決めていた事。
紋付袴と白無垢の二人。
黒と白の私たち。
ハオは髪を一つに束ね、私は唇に紅を引く。
青森からおばあちゃんとアンナを呼び寄せて。
婚儀は密やかに行われた。
祝福と戸惑いの中。
私は本日を持って『麻倉』になった。

学校には、校長先生にだけ伝えた。
内緒の入籍。
明日から私は普通の女子高生じゃなくなる。
ハオも普通の高校生じゃない。
妻帯者になる。
私はうら若い妻になる。

「本当に後悔してない?」

夜、今日だけは特別だと、私たちは寝所を共にした。
本質なんて全く含まれてない、儀式的な添い寝。
狭い部屋に布団を並べて、二人で同じ夜を共有する。

「してないよ。私、本当に幸せだって思ってる」
「…少し、急ぎすぎたかな」
「そうだね。でも、結果は変わらないでしょ」

私は布団の中に忍び込んできたハオの手を、ゆっくりと包み込んだ。

「…今日は、こうやって寝てもいい…?」
「……うん」

おやすみ。
どちらともなく呟かれた声は、夜の闇に溶けて消えた。

ハオは夫になった。
私は妻になった。
二人の首には、同じネックレスが揺れる。
婚儀を交わした二人で交換した、それぞれの指輪を通した細いチェーン。
私はこれを、誇りだと思った。

(2008/07/23) 学生結婚万歳。





【2003年8月某日】

今年もお盆に合わせて青森からばあちゃんとアンナが来た。
はここぞとばかりに僕たちの受験勉強を取り上げて、
みんなで海に行こうと誘った。
ちょうど勉強ばかりで飽きてたときだし、みんなして海に行った。

は最後の夏休みだから、とバイト代で新しく水着を買っていた。
来年になればまた夏休みは来るし、僕らにとっては何でもない事。
でもは違う。
は本当に今年が最後の夏休みなんだ。
だから、僕はの我が儘を聞いてあげたいと思った。

「ちょっと飲み物買ってくるね」

そう言って走っていったは、本当に眩しかった。
黒いビキニが色っぽいなんて言ったら怒られるだろうか。
夏休みの間、は指輪をしてくれている。
それに倣って、僕も指輪をはめている。
夏の日差しに照らされてきらめくそれに、僕は何となくあたたかい気持ちになった。

、遅いわね」

そう言ったアンナに僕も心配になって、少し探してくるよ、と残して
海の家までを探しにいった。
すると。
数人の男に捕まっているを見つけた。
見るからにチャラチャラした男に、僕は吐き気を覚える。
間違いようもなく、ナンパだ。
僕はと男の間に割って入ると、その中の一人のネックレスを掴んで顔を引き寄せた。
俗に言うメンチを切っている状態だ。

「その子の左手の薬指が見えない? それ、正真正銘の結婚指輪なんだけど」

そう言って男を思いっきり突き放して、ちょっとだけ霊力を開放して、
僕の背後にたくさんの溺死者の霊を見せてみる。
すると男たちは一目散に逃げていって、には呆れられた。

「あれくらい私だけでもどうにでもできたのに」

そう言って溜め息を吐くに僕はキスをした。
周りの目を引いてしまったけど、これで虫除けになった。
に思いっきり回し蹴りをされたけど、僕は満足だった。

(2008/07/25) 旦那様は嫉妬深いのです。奥様は強いのです(あらゆる意味で)。





【2003年9月27日】

が18歳になった。
だからと言って何が変わるわけでもない。
(だってはもう結婚してるし)
(男と違って女の子は16歳で結婚できるし)

だから今年の誕生日プレゼントはいつもと同じで良いか。
なんて考えながら、アクセサリーの類は絶対に避けようと思って、
(だってハオに何て言って責められるか分かったもんじゃない)
(指輪なんてもっての外だ)
結局アンナに相談して髪飾りを贈る事にした。
髪飾りはアクセサリーには含まれないというアンナの保障付きで。
ハオはネックレスとブレスレットのセットを贈っていた。
アクセサリーにしなくて本当に良かったと思った。

そしては、翌日からそれを使ってくれた。

「ちょうど髪をまとめる物が欲しかったのよ」

は颯爽と出かけていった。
高校2年生で取得した原付に跨って。
普通自動二輪車の免許を取得するために。
高校では禁止されてるけど、『麻倉』の力で捻じ伏せて。

「これから仕事で必要になるかもしれないじゃない」

は笑顔で原付を制限速度以上で飛ばしていった。
オイラはもう、が何を目指してるんか分からなくなった。

(2008/07/27) ビックスクーターに乗りたいだけです。




メニュ