【ハオ】

が僕を受け入れてくれた。
それはまさに神から与えられた福音にも等しかった。
奇跡だと思った。

今でも鮮明に思い出せる。
あの日確かに僕たちは、小さな世界の中に二人きりだった。
桜の花びらが作る小さな世界。
その美しさに、僕は眩暈すら感じた。

「…私の気持ち、知りたかったら心読めば良かったのに。
言葉よりも、そっちの方が素直なのに」

今だからこそ言えるその台詞を、
は少し頬を赤く染めながら言った。

僕は、生まれたときから変な能力を持っていた。
類い稀なる霊視能力。
それは人の心が読めてしまうという、とんでもないもの。
…いや、読めるというのは違う気がする。
見える。
そっちの方が近いのかもしれない。
ただそこにいるだけで人の心の中が見えるのだ。

幼稚園くらいの頃だったろうか。
それを知ったじいちゃんは、僕に念珠をくれた。
この力を抑えるためのものだった。

の言うとおり、
確かに僕は幾度となくその力に頼りたくなった。
の心が見たい。
が僕をどう思っているのか知りたい。
そう、卑怯な願いを抱くようになってしまった。
でもそれをしなかったのは僕のささやかなプライドと、
それに伴う恐怖を乗り越えられなかったからだ。

「でも、それって物凄く怖い事だよ」

もし、が葉を望んでいたとしたら…。
僕以外の誰かを好きなのだとしたら…。

そう返すと、は少しだけ目を見開いて、それから薄っすらと笑った。

「…そうだね。もし私がハオだったら、怖くて使えないね」
「うん。そんな事、絶対に怖くてできないよ」

そう言って二人で静かに舞い散る桜を眺めた。

これも今だからこそ言える事だけど、
僕は霊視に頼らなくて良かったと思ってる。

の心を知らなかったから、
あんなにも大切な毎日を送る事ができた。
不安だったけど、それが心地良かった。
気が狂うほどに独占欲を抱いたけど、
その心ほど強くを想う事なんてできない。
知りたいけど知りたくない。
そんな二律背反な想いを抱く事なんて、もう二度とないと思う。

「でも、もう大丈夫だよね?」

そう言ってと手を重ねると、
は顔を伏せて、優しく手を握り返してくれた。

(2008/03/24) 過去も現在も未来も、君をだけを愛し続けるから。




メニュ